Helsinki Cine Aasia 2023

April 19, 2023

『そばかす』 写真:© そばかす制作委委員会
『そばかす』佳純と真帆 写真:© 映画『そばかす』製作委員会

注:Spoiler Alert // ストリー漏れ警告 Do not read below if you plan to watch the movies and do not want to know what happens in them.   // 今後以下の映画を観る予定で内容を知りたくない場合は読まないで下さい。

また、このエッセイを書くにあったって、いずれの映画も一度しか観ていないのと時々字幕を読んだりしていたので詳細見逃したり忘れたりあるいは誤解していたらご容赦の程をお願いします。

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久しぶりに邦画を映画劇場で観た。『そばかす』“I am Who I am”『千夜、一夜』 “Thousand and One Nights” の2作品。

3月16-19日に開催された HELSINKI CINE AASIA で上映された邦画8作品から選んだ。『そばかす』は英語題 “I am Who I am”と概要、『千夜、一夜』 は 大好きな田中裕子さんが出演のみの理由で観ることを決めた。

いずれも日本社会における女性の生き方を最近の映画脚本家や監督がどのように表現しているか興味深かく観るのを楽しみにしていた。

出演者は皆、各の役柄に最適で自然で見事な演技だった。衣装やセット詳細もストーリ展開にマッチしていた。日本の台所や家の内装は、真から懐かしく感じた。海と浜辺(そして空と風)は、主人公が町・村・人から離れ、ひとりになり安らぎを得にいく広大なキャラクターを両方の映画で演じた。

このふたつの映画に共通する幾つかのテーマのうち特に印象が強かった2点について語りたい。その後、作品の本題とはやや離れるかもしれないがとても気になったことを書きとめておく。最後にHELSINKI CINE AASIAの概要を参考までに加える。

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印象深いテーマ1. 女性主人公の生き方を周りが変えようとする

一つめは、女性主人公の生き方を周り、『そばかす』蘇畑佳純 そばた・かすみ、30歳の場合は母親、『千夜、一夜』若松登美子、わかまつ・とみこ、50代? は同じ村に住む人々、が変えようとすること。

両方共本人独自の理由で一人でいる。佳純は本人にもわからない心身現象の為、恋愛感情を持ったことがなく、働きながら両親と同居し、登美子は30年前行方不明になった夫を待ち、育った佐渡ヶ島の漁村の烏賊処理場で働きながら一人暮らしをしているが、周りはこれが本人にとって望ましい状況でないと一方的に判断し外圧をもたらす。

佳純の母は、嘘をついて彼女をお見合いに出席させる。家族が集まる食事の場でも母は交際また結婚の話を再度持ち出す。

登美子は、幼少時代から彼女を慕っていた漁師の春男から、一緒になり「面倒見させて欲しい」と再度頼まれるのみならず、春男の母また同僚の男性たちからも勧められる。登美子は、その度はっきり断っているのに、彼女の意思を理解しない。実際毎晩のように泥酔する春男は富美子に貢献できるような人格ではなく、かえって彼女の重荷、迷惑な存在になるのではないか。

佳純も富美子も物語上「今のままでよい」生活をしているが、なぜ家族や周囲の人々は本人の事情や意向を理解するどころか、関心を持って聴こうともせず、全く無視するのか。更には、あなたの考え方や生き方は間違っている、自分はあなたのことを案じて良かれと思うアイデアを提案しているという言動を取る。それを受け入れない佳純、富美子は、もっと言えば、感謝の気持ちがない、我儘、傲慢な人と一方的に悪人ラベルを貼られる恐れもある。

その人のことを思うのならばその人の意思や状況を親身に聞くことがまず第一歩、そしてそれを尊重するのが本来ではないか。『そばかす』では、中学同級生で最近再会し親しくなった友人の真帆がこの人格を持ち、佳純を暖かく理解し、自分らしい生き方を外面的に表現することを力強く薦める。真帆の励ましを得て、佳純は自己実現の道を前向きに闊歩し始める。シンデレラのストーリ展開と結末を書き換える作業のシークエンスは、この物語のシナリオ、主人公蘇畑佳純の人生軌道と並行して、未開地を開拓するエネルギーと希望に満ちている。

また父親は積極的な提案や意見はしないものの、深入りもせず、佳純をそのまま受けとめる、母親と対照的な存在。彼は佳純の生活天秤をやや安定させる役割を持ちほのぼのする空気を齎した。

結婚(それも一男性と一女性の結婚)イコール幸せ、あるいは安定した人生という観念は、グローバライゼーション、ジェンダーエクイティが推進する社会、健康寿命が延び人々の生き方が多角化する現代には通用しない。しかし、一般的に当たり前となっている他の選択肢が現社会にはほぼ無い。多様な選択肢を構築し受け入れる必要があると痛感した。

印象深いテーマ2. 最も大切なことを大切な人々に話さない

二つめは、最も大切なことを最も大切であるはずな人々に話さないこと。『そばかす』の佳純は親しくなった女性友人真帆意外、お見合いで出会い結婚前提なしで合意し親しくなったラーメン屋オーナーシェフ男友達にも、家族、特に妹にも、自分のセクシュアルアイデンティティを打ち明けない。『千夜、一夜』の登美子は、亡くなった母が自身の葬儀で演奏を希望した唄を彼女に伝えなかった、そしてある日突然蒸発した夫は彼女に無言で去った。登美子が「大事なことは何も言ってくれない」と再度静かに呟く場面は印象的だ。

佳純の場合、ラーメン屋シェフと友達として親しくなる過程で話せる機会があったように思うが、切羽詰まった場面で自分がアセクシュアルだと吐き出すように説明するがラーメン屋には理解してもらえず友人を失うことになる。焼肉夕飯の家族の場面でも妹が彼女を全く誤解し傷つくような発言に至る。父母には話せないとしても、妹にはどこかで打ち明けられなかったのか。結婚を迫る母には二人でいる時正直に事情を話し理解を求めなかったのか。

『千夜、一夜』では、2年前に夫が失踪した奈美が登場し、二人の女性がある日突然家を出て戻らない夫を持つストーリだが、犯罪(誘拐)あるいは拉致されたなど本人の意思でなく行方不明になった以外は、本人が人生で一番大切であるべき妻に何も大切なことを話さなかったこととなる。登美子と奈美の両方が夫が疾走しことが全くの驚きである事実からも夫婦間での会話ややりとりが表面的でしかなかったことを察することができる。

幸い『そばかす』では上記のように、友人の真帆と親しくなる過程で佳純が自分の性的指向を自然に打ち明けられる安全な空間が生まれる。勤務している幼稚園の新人保育士も佳純の真相を察してオープンな会話を持ちかける場面が登場し、穏やかで新鮮な空気が流れる。

上記2つの現象は日頃起こる葛藤の原因だと思う。巷のありとあらゆるところに存在しながら多くの人が気が付いていない。『恋愛感情を抱いた経験のない30歳の女性』が問題なのではなく、その現状を変えようとする周囲の言動、本人がそれを正直に話す自信や勇気を持てず、聞く側は思いやりを持って聞く心構えがないことが問題なのだと感じた。私自身、内向的で個人的な話をするのが苦手だが、ここ数年、ある一定の人には自分の内面を表現するのは大切であるのみならず、健全で豊かな人間関係を育てるには必要だと学び、できるだけ実践する努力をしている。とても難しいが。

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とても気になったこと:タバコを吸う人

タバコを吸う人の意味は?

『そばかす』主人公の蘇畑佳純は、諸々のキャラクター表現の一つに『タバコを吸う』がある。これにはどういう意味があるのか。

職業、服装、髪型、お化粧、行く場所、食べる物、飲む物、交通手段、音楽嗜好、などなど無数の要素が一人のキャラクターを形成するが、タバコを吸うという点は、彼女がどういう人であるかを示唆しているのか。佳純が陽だまりで気持ちよさそうにタバコを吸っている姿が販促ポスターにも使われている。彼女のこの側面が見る人に何かを訴え、映画を見たくなるようなメッセージを込めているという事になると言える。

もっと直接的に言うと脚本家、映画制作者はどのような意図で彼女をタバコを吸う人にしたのか。

プロにはならなかったがチェロを弾く、優しいプロフェッショナルな保育士で、聡明、飾り気はないけれど、さばさばした好感を持てる主人公が、タバコを吸う人なのは矛盾と驚きを感じたのみならずちょっと失望した。

私にとってタバコは害は多々ありながら(命取りになる、周りの人々にも有害、臭い、口臭が吐き気をもたらす、髪や服に嫌な匂いが染みつく、お金が掛かる、歯が黒くなる、ニコチンがキレるとイライラする、喫煙所を見つけるは大変、などなど)、利点は全くない物。

タバコを吸うのは蘇畑佳純らしくない。

『千夜、一夜』では、奈美と烏賊処理場の同僚がタバコを吸う人になっている。奈美は失踪した夫を持ち精神的なストレス解消手段にしているのか。夫の蒸発とは関係なく喫煙者なのか。看護士という職業柄、超矛盾する行動であるにも関わらずタバコを吸うのはそれほど究極に陥っていると表現したいのだろうか。彼女がアパートの窓から顔を出して思いに耽りながらタバコを吸う姿も映画販促イメージの一つに使われている。

中でも烏賊処理場の同僚は、物語の展開とは途方もなく離れて一番気になった。休憩時間に日当たりの良い作業場の外に腰掛けて富美子と世間話をしながらタバコを吸う。約40センチメートルぐらい離れたところに、数分前、手際良く捌き開かれた烏賊が網の上に並び干されている。あの新鮮で美味しそうな日本海の烏賊にタバコの匂い、いやそれのみか有害物質がしみついてしまう! 食品工場で喫煙が許されているのは信じ難い。もしかしたらこの物語は50年前の設定なのだろか? 烏賊処理場の休憩場面は何度かあり、その度にあまりに気になって富美子と同僚の会話はほぼ聞き損なった。

もうひとつ、もっと気になったこと:

『そばかす』の佳純は、恋愛感情を抱いたことがないと数回言うが、それがどういうことで、なぜなのか興味がないのだろうか。この点は映画の中では言及されず、ということは、肯定も否定もされていない。聡明かつ独創性のある彼女が人生30年一度ももっと知りたいと思い、何らかの行動を取ったことはないのだろうか。

チェロとの関係に加え、このアセクシュアという側面でキャラクターを掘り下げ、書き換えたシンデレラを通じて表現させたらもっと深みが出、満足度も増したと思う。

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ヘルシンキシネアジア HELSINKI CINE AASIA

ヘルシンキ シネ アジアは、2013年から開催されているフィンランドで唯一のアジア映画祭典で、 毎年 3 月に東アジアと東南アジアで制作・製作された映画の中から最も興味深く感動的な作品を厳選し上映している。今年は日本からの8作品(7映画、1ドキュメンタリー)を含め、中国、韓国、香港、インドネシア、シンガポール、タイ、フィリピン、台湾、マレーシアから、合計22作品を紹介した。

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『そばかす』“I am Who I am”  https://notheroinemovies.com/sobakasu/

Director: Tamada Shinya. Writer: Asada Atsushi. Starring: Miura Toko, Maeda Atsuko, Ito Marika. Language: Japanse. Distribution: Nagoya Broadcasting.

『千夜、一夜』 “Thousand and One Nights” https://bitters.co.jp/senyaichiya/

Director: Kubota Nao. Writer: Aoki Kenji. Production: Bitters End, Inc. Cinematography: Yamazaki Yutaka. Starring: Tanaka Yuko, Ono Machiko, Dankan, Ando Masanobu. Language: Japanese. Distribution: Bitter’s End.

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