地方女性諮問機関ビジネスアドバイザー、愛日家であるヤーナ・プハカさん。世界で最もピュアな自然から採集あるいは栽培される食物 <<きのこ、ベリー、有機白樺樹液など>> を栄養素、風味の高い商品として日本市場に紹介するため3月に来日。
March 15, 2023

写真:ヤーナ・プハカ Jaana Puhakka
機内の小さな窓から見える地上の景色はどんどん遠ざかっていた。「涙が溢れ泣きました。」とヤーナ・プハカさんは語り「日本から離れたくなかった。」と加え私の心もきゅんとなった。
ジェトプログラム(JET – The Japan Exchange and Teaching Programme 語学指導等を行う外国青年招致事業)内に設けられた3職種の一つ、国際交流員として島根県に住み勤務した。2年の任期が終わりフィンランドへの帰路に着いたところだった。2003年8月、今から約20年前の事である。

国際交流員としての役割は、日本海に面する島根県多伎町(現在出雲市の一部)とフィンランドの北西部ボスニア湾に面する姉妹都市カラヨキ町との交流推進だった。多伎町は小さい町で自然の中をよく散歩した。「『田舎』をとても楽しんだ。」とヤーナさんは言う。彼女が日本語で発する言葉『いなか』には愛情があふれている。出雲大社や小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)が1年3ヵ月住んだ旧居のある城下町松江市にも近く、「とても田舎で小さい、本当に特別なところ。」と語った。茶摘み、米の田植えの体験は当時の最高の思い出となりこの頃の話をする彼女の声はゆったり暖かく喜びに満ちている。
ヤーナさんは、フィンランド北カレリア県の最東部にある農村イロマンツィで生まれ育ち、現在も同村内の小さい島で森に囲まれ湖の辺りに建つログキャビンに夫と犬4匹で住んでいる。家の2階には日本から持ち帰った畳が敷かれ、彼女の愛日度がひしひしと伝わる。この島は、約40世帯、約100人の人口で、「隣の住居は見えないし、一番近い食料品店は20km離れている。」と言う。

反面、夏には家から500mも行けばビタミンC満喫のクラウドベリー(Rubus chamaemorus、日本語名ホロムイイチゴは発見された地名幌向にちなむ)が摘め、初秋には森にキノコ狩へ出かける。湖で魚を釣る。フィンランドでは家族で週末に近くの森、野原、湿地、湖から自然食を採集するライフスタイルがあり、子供の頃から親や祖父母から美味しい食用キノコの探し方や毒キノコの見分け方などを学んでいる。そして10年ぐらい前から猟も始めた。これは自然に触れながら環境維持に役立つ食料収集方法の一つだと思っている。彼女が田舎に住んでいるのは子供の頃から自然が大好きだからだ。

日本との出会いは1996年、北カレリア県庁ヨエンスー市に本拠地を持つヨーロッパ森林研究所(The European Forest Institute) で開催されたシンポジウムでインターンを務めた時に遡る。このシンポジウムで日本の森林学者太田先生と知り合った。翌年に京都大学が開催したヨーロッパと日本間の森林会議で仕事のチャンスがあり、会議の始まる前に京都へ住み一夏語学学校へ通い集中コースで日本語を学んだ。この際、太田先生が関西空港で暖かく歓迎してくれ京都でこれまで全く知らなかった日本食や文化を紹介してくれた。「お刺身も一口目から大好きになりました。日本食は何もかも美味しく食べられないものはありません。」とヤーナさんは言う。その後数回仕事、私用で日本を訪れ、最後に短期滞在したのは2017年。
その彼女がフィンランド北カレリア県を代表する自然また農作食品飲料を日本市場に紹介するパイロットプロジェクトを提案、詳細を構築、資金調達も果たし、北カレリア県知事、地元ビジネスオーナー代表数名を率いて今年3月に東京で日本の飲食製品関連業社と一連の会合を持ち、FOODEX JAPAN 2023 国際食品飲料展も視察した。

地方女性諮問機関(Rural Women’s Advisory Organization) フィンランド東支部でビジネスアドバイザーとして活躍するヤーナさんは、自身が情熱を込めるプロジェクトを持って来日することを夢に見てきた。今回のパイロットに参加するのは、いずれもこの地方のピューアな自然から採集、栽培される栄養素の高い素材を駆使し高品質な製品を開発し販売する企業。肉、きのこ(ポルチーニ、シャンテレール、チャガ、レイシ等)、ベリー(リンゴンベリー、クラウドベリー、ビルベリー等)、蜂蜜などの食料品、白樺樹液飲料水、ビール、ジン、ベリーやカシスの葉を原料とするノンアルコールスパークリングワインなどの飲料品、フリーズドライ技術含め22社である。「地方のビジネスは小規模な家族経営なので、私たちがアドバイスする企業のオーナーは女性である場合が多いです。」とヤーナさんは説明する。
これらの企業に対して地方女性諮問機関は、日本飲料品市場への輸出過程、輸入業社候補や流通経路、プレミアム小売店、飲食店へ効率の高い販促方法、商品表示の規制などの指導も行う。
地方女性諮問機関は、ヘルシンキに本部をもち、9支部で各地域のランドスケープ、食、ビジネス、環境関連サービスを提供している。約900の協会、25,000人のメンバーから成り立ち、フィンランド教育文化省から運営費の援助を受けている。地方の女性ネットワークを通じて専門知識を共有し小企業の繁栄を図る。
この日本市場に向けたパイロットプロジェクトはともすれば弱体化しつつある地方経済の活性化、地域の魅力向上を図る使命を持つ。北カレリアを含むフィンランド東部のサイマー地域は、European Region of Gastronomy Year 2024 (2024年度欧州ガストロノミー地域) の地位も得た。これらの追い風に乗り、この地方の人々が誇る自然の幸を日本のより多く人に発見し味わって貰いたい。

